自制心について
成功者とか人生の勝者と呼ばれる人たちは、つまるところ、一代で巨万の富を蓄えた人物ではないだろうか。ーー現代日本では。
では、どうやってマネーを集めたらいいのだろう。
簡単なことである。
必要以上の商品を買わせること。これに尽きる。
とすると、おいしく調理された食品を売るとか、美しく着飾った美人に踊らせたり歌わせたりしてカネを集めるとか、つまりは、人間の欲望をこれでもか、これでもかと、いうほど、増幅させるのである。
歌って踊るアイドルたちもいわば麻薬であり、中毒症状を起こすこともあるだろう。テレビ、インターネット、スマホ、夜の繁華街、売春、博打、など、すべて中毒を起こす麻薬のようなものである。
しかし、これらすべてを否定して生きてゆけるだろうか。
生まれたときからこれらに囲まれて、生活してきた人間には、もはや手遅れだろう。
また、未開人が、成人してからこれらの遊びを覚えたなら、その人は、気が変になってしまうのではないか?
病原菌と同じように、免疫がないからである。
では、この狂った現代社会で、どのようにこれらの毒を避け、危険を避けて生きてゆけばいいのだろうか。
それは一言で言える。
「自制心を持つこと」
これだけである。
しかし言うは易し、行うは難し、なかなかにできることではない。
だからこそ、この自制心の訓練が必要とされる。
現代人には、未開人や古代人にはない、快楽、娯楽、楽しみがあるが、それを全否定して生きてゆくことは、特別な修行をする求道者以外にはとても無理なので、自制心の訓練を幼い頃からしなくてはならない。
それを、親は自分の子供にしつけしなければならない。
物心つく頃にはもう遅いのではないか? 早くから始めなければ。
また、青年になってからは、自分で自分をしつけなければならないだろう。
常に怠らず、自分自身を管理し、律しなければならない。
たとえば、食べ物をたくさん食べたな、食べすぎたな、と思ったら、「これ以上食べたら体に悪いから食べ過ぎてはならない。もうやめておこう」と自分を管理するのである。
飲酒についても、飲みすぎて酔い過ぎてしまったのなら、「飲みすぎたからもうこのぐらいでやめておこう」と自制することである。
酒を飲むと、どうしても自制心がゆるむので、これはむずかしい。が、これができないと、必ずや体を壊すだろうし、そうでなくてもなんらかのトラブルを起こしがちだ。
仕事関係についても、異性関係にしても、その他の遊びについても、自発的に、自制心の訓練が必要である。
文明の進んでいない、未開地域の民族が、急に現代文明を持ち込まれたとたんに、急に自堕落になってしまうのも、訓練されていないからだと思われる。
それこそ、飲む、打つ、買う、の三拍子に加え、カネ、カネ、カネ、と、金銭の要求ばかりである。
多くの宗教で、断食や断社会(出家)、禁欲の修行をするのも、心身をリセットするために違いない。
いわば、自発的に生まれ変わるわけである。で、名前すら、以前の名前を捨てて、法名とか戒名を名乗るようになるのだろう。
思うに、自制心というものは、現代に生きる人類にとって、もっとも大事な心の働きではないだろうか。
他の動物は本能のままで、特別な自制心を持っているようには思えないのだから。