働く、という言葉の意味
現代社会はマネーに振り回されている。
表面上は善い人ぶっていても、その仕事内容は多くの場合、詐欺師と変わらないのかもしれない。
それが現在の日本社会、いや世界中がそうなのかもしれない。
大学を出て、新入社員となって、5月の中頃になると「五月病」になるという。いわゆるうつ病の軽い症状だろう。先輩社員はあきれているが、実は彼らとて、昔はそうだったはずである。
黒澤明の映画で「生きる」というのがあったが、そんな場面があった。
しかし、もはやオジサンもしくはオジイサンになってしまった現在においてはそんなことすっかり忘れている、もしくは忘れたふりをしているのだ。
子どもの頃から、不正はいけない、正しく生きろ、人をだましてはいけない、正直であれ、ウソをついてはいけない、などと、さんざん教えられて育ってきたのに、社会に出たとたんに、聞いていたのとはまったく違う世界なのだ。
ゴマカシでできた商品を、うまく取りつくろって良い商品だとだまし、大量に売りつけるのが、たいていの仕事なのだから。
しかも、世間で大企業だとか一流企業といわれるところほど、そのギャップはひどい。
お堅いイメージの金融機関では、上司と新人女子社員との不倫は当たり前で、まるで奨励しているかのような様相である。
なにせ、新入社員について、上司たちが話している内容はというと、
「今年は、かわいいコはおるか?」
なんですから。
おかげで、女をめぐるトラブルも多いように思う。
お役所ではワイロ、というか贈り物合戦。あまりに多いので、上役になるほど、その数の多さゆえ、いちいち送り主を覚えちゃいない。
会社では足の引っ張り合い、出世合戦。ゴマすりだけがモノをいう社会構造。
良心など、カケラもない。そう思えてしまう。
こんな状態をまのあたりにしたら、そりゃ、うつにもなる。
逆に水を得た魚のように、活躍するような人間もいるが、どうなんだろう。
しかし、この現状をすばやく飲み込み、転身して、人を人とも思わず、口八丁、手八丁で、成績を伸ばす社員が、勝ち組になる。
高い給料がもらえ、出世する。多かれ少なかれそうなっていく。
これに耐えられない人間は落伍者となる。
なぜうつになるかというと、人間は本来、他人の役に立ちたい、という本能があるからである。
会社に入って仕事をしてみると、他人の役に立つどころか、他人をだまして、売上を伸ばす。それが仕事であったのだから。
よく、病気になったり、体を壊して働けなくなった人が、
「おれはもう、役に立たない人間なのだ・・・」
といって悩んでいるが、その人の感覚が正常なのだと思う。
はたらく、という言葉は、「傍(はた)を楽にする」という語源だという。
英語のWORKも語源は「役に立つ、機能している」という意味だったはず。
「おれは、会社が金儲けして、自分の給料が上がるためだったら、何でもする」
などというほうが、異常なのである。
だから、日本社会は異常なのであり、世界中が異常なのだ。
それゆえ、世界は不幸なのだと言える。
人間が根源的な幸福を得るには、
「よき人々のために、役に立つこと」
であり、そのように生きることが幸福なのだと言える。
ただし、「そのように生きること」がいかにむずかしいことか。