大地震だ!

姉は中学生のころからすでに自分の部屋にベッドを置いていて、それで寝ていた。むろん、ぼくはふとんで寝ていた。

ある時、もう成人して大人になり、すでに働いていたぼくに、姉が、もうベッドはいらないからあげる、と言われた。わけは不明である。
よく覚えていないが、たぶん、新しいベッドを買うつもりだったのだろう。

ぼくは大喜びでせまい自分の部屋にベッドを移動したのだが、置いてみると結構デカかった。

はじめのうちはふとんを下に落としたり、自分が落ちたりしたが、そのうち慣れてきて、なぜかふとんを落とさなくなった。ただ、飲み過ぎた翌日、朝になるといつのまにか下の床で寝ていることがあった。
たぶん、そのほうが気持ちよかったのだろう。落ちてはいないと思う。

ある日、その日はアルコールを飲んでいなかったか、飲んでいてもごく少量だった夜だった。まだ眠らずにベッドで寝転がっていた。というか、部屋にいるときは、ほとんどベッドに寝ころんでいた。

突然、ガタガタガタッと激しく床が動き、ベッドが上下左右に激しく揺れ動いた。
大地震である。

揺れは十秒から二十秒ほどでおさまったが、ぼくはびっくりしてベッドから起き上がった。

その当時は部屋にテレビもなく、ラジオも聞いていなかったので、情報を確認することはなかったが、その夜はそのまま電気を消して寝てしまった。

次の日の朝、父に、
「ゆうべの地震はキツかったな」
というと、地震なんてなかった、と言う。
ぼくはそんなはずはないと、言って朝刊の記事をくまなくさがした。

何もなかった。
テレビを見ても、家族のだれもがそんな揺れはまったくなかったという。
夕方に夕刊も確認したが、やはり地震情報はなかった。

ぼくは部屋に行って、いろいろと調べてみたが異常はなかった。
机の上のものも床のものも、まったく動いていなかったのだ。とすると、ベッドだけがガタガタと激しく動いたとしか考えられない。

ポルターガイスト現象である。

映画のエクソシストほどではなかったが、けっこう激しく揺れ動いたので、なんだかおそろしくなって、ベッドで寝るのはやめて、それからはまたふとんで寝るようになった。

その後そのベッドは処分した。

ポルターガイスト現象(?)は、あの時、一回きりだった。