エゴイストの不幸

おまえは、自己中心的である! と言って他人をやたら非難する人がいるが、そんなことはしなくてもよい。

利己主義者は放っておいても不幸になるからである。
というか、すでに不幸に違いない。

富裕層の方々は、けっこう悩み多くて、不幸である。
夜、眠れなくて、睡眠薬のお世話になっているのは、ぼくの知る限り、全員お金持ちだった。忙しく働いているお金持ちじゃない人(失礼)には、不眠症になるひまがない。

しかし、このゼイタクな不眠症という悩みは、ひどくつらいらしく、ここのところは我々貧乏人には理解できないので、みんな腹を立てる。

でも、本当に死ぬほどつらいのである。
でないと、あんなに苦痛にゆがんだ顔にはならないし、本当の病気になったりはしない。

さらに、事業に失敗して倒産したりすると、自殺しかねないほど、憔悴しきっている。
太った体はガリガリにやせ細り、真っ青な顔で何日も寝ていない。

あれでは、貧乏人のほうがましである。

とにかく、他人の苦しみ、というのは、まったく理解しづらいものだ。

利己主義者、自己中心的な人には、他人の苦しみが理解できない。
しかし、ほとんどの人にもそれはあてはまる。基本的に、他人の苦しみ、というものは、わからない。

ただ、その自分に向ける愛情というか、利益誘導の割合が、普通の人よりもパーセンテージが異常に高い人を、「利己主義者」と呼ぶのだろう。

つまり、全員がある程度、利己主義者であたりまえなのだ。

たとえば、ここにアンパンが一個あるとする。子供は3人いる。みんなで分けようと言っているのに、でたらめなことを言ったり、ウソをついたり、だましたりして、こっそり全部を食べてしまおう、それが当然だ、という人間が、利己主義者である。

世の中に、利己主義者は多いが、多くはよく体調を崩している。なんだか知らないが、中年女性に多いように思う。

彼女たちのほとんどが、自分の思い通りにならない、他の女性の幸福をねたんでいる、そしてそのくやしさから不眠症になり、原因不明の病気になっている。

医者に行ってもわからない。わかるはずがない。本人も分かっていない。いくら薬を飲んでも治らない。

思い通りにならない、その不満と妬み、嫉みが原因なのだから。
たぶん、その妬む相手が死ねば治るのだろうが、その期待はうすい。

また、男性会社員の場合は、家で大暴れしたり、大酒を飲んで迷惑をかける男性のほとんどが、嫌いな同僚とか上司が自分より出世したことが原因である。
というか、ほかの原因を知らない。

この怒りたるや、まったくすさまじいものがある。まったく狂ったような叫び声を上げるんですから。家など破壊するほどの勢いなんですから。

これら、嫉妬の苦しみは、これほど激しいものなのである。まさに、気も狂わんばかりである。おそらく、本当に狂った人もいるのではないか。

世の中、自分の思い通りになんか、絶対にならないのである。
「思い通りになる」などという自己啓発セミナーがあるが、ウソである。もし、そんなことになったら、世界は瞬時に滅亡する。

思い通りにならない苦しみは、それほどつらい。

ところが、である。
あまり、というか、ほとんどそういう苦しみのない人もいる。
彼らは、自分よりも他人の幸福を喜ぶ性質を持っている。
よく言えば、善良な人、悪く言えば、鈍感な人なのだろう。まあ、一般的に言う、「いい人」なのだ。

彼ら(彼女ら)は、まず自分よりも他人を優先する。だから、だいたいにおいて損をすることが多い。
いわゆる、道を譲るタイプである。
ただ、このタイプは非常に少ない。しかし、ぼくはこういう人(夫婦)を知っている。
その夫婦はぼくらが困っていたり、苦しんでいると、真剣に、マジで、心配してしまうような人々なのである。
ここまでくると、まったく珍しい人種で、かえってこちらが恐縮してしまうのだが、お構いなしである。

あの人たちは、他人を優先するので、常人では腹を立てるような場面でも、全然怒らない。歯がゆいほどである。
また、例えば、他人であるぼくらに、いいことがあると、まるでわがことのようにうれしいようだ。
ことわっておくが、ぼくらにだけではない。知人のほとんど全部に対してそうなのだ。
そして、ちょっとばかり不幸な話でも、「そのぐらいですんで、よかったね」などと言って明るい顔をしている。

こうなると、まるで珍獣である。

ほんとうに、めずらしく「いい人」なのだ。しかも、何の宗教も信心していない。どうなってるの?

だからあの人々には妬みとかいう感情がどうやら存在していないようで、そんなことで不眠になったり、体調を崩ししたり、することがない。

他人の幸せが自分のことのように感じるので、いつも元気でいる。どうやら、他人の幸福の多くは受け入れて、不幸は少ししか受け入れないようだ。

なぜかというと、人は、自分の幸福は言いふらすが、不幸なことや恥ずかしいことはできるだけ隠しているからであろう。

これが、自己中心的な人が不幸で、他人優先の人が幸せな理由である。

スポーツなどで、自分の応援しているチームが優勝した時に喜んでいるファンの心理に似かよっているかもしれない。

これら「いい人」たちは、みんなを応援しているファンなのだろう。

結論。世界は思い通りにならない。
自己中心的人間が幸福になることは、絶対にない。