臨死体験で見た青い世界
いくら真理が、心霊、超常現象などと無関係であるとはいえ、まったく霊的もしくは類した不思議現象を体験したことのない人が、死後の世界を信じろとか、霊の存在を信じろと言われても、それはなかなか無理なのではなかろうか。
ぼくにも少しばかりそういう体験がある。
自分の家庭を持つまでは、誰にでもそういう経験があるものだと思っていたが、どうやら世間一般ではそうでもないらしい。
父母も姉もそういう体験があるのだが、ウチの奥様やこどもたちには、ほぼそういう体験がないので、道理で世間の人がそういうことを信じないはずだと、最近やっと理解できた。
臨死体験のようなことがあった。
あれはたぶん、小学校三年生ぐらいの頃だった。
当時、京都の八瀬という場所に遊園地があった。比叡山のふもとである。
その八瀬遊園は冬はスケートリンク、夏はグランドプールになっており、毎年夏には1回か2回くらい行っていた。
その時も、母と姉とぼくでバスで出町柳まで行き、京福電鉄で八瀬まで行き、プールへ行った。
切符が高価だったので、母はプールの内部に入らず、建物の、プールが見渡せる場所からぼくらを眺めていて、ぼくと姉は二人でプールで遊んでいた。
そのプールはこども用と大人用プールに分けられていたが、境界にはかなりの段差があって、ブイ(?小さな浮袋が並べてつないであるロープ)で仕切られているだけだった。
ぼくは、そこに気をつけるように言われていたのだが、ついうっかりと深みのほうへはまってしまった。
完全に全身が水に沈んだのだが、なぜかまったく苦しくなくて、目は開いているのだが、世界が全面、真っ青な世界だった。
これほどの「青」はないだろうと思うほどあざやかな青一色だけの世界で、何一つ音はない。
その時間は数十秒、続いたと思う。
ぼうぜんとしていたところ、いきなり、ザバーっという音とともに体が上へ引き上げられて、気がつくと、プールサイドのコンクリートの上に立っていた。
どういうわけか、目の前に姉が水着姿で立っていて、キョトンとしていた。
もちろん、ぼくもわけがわからず、キョトンとしていた。
あとで知ったのだが、姉はちょうどそのプールサイドにいて、何か水面から人間の手が出ているのをみつけて、これは何だろうと思って引っぱってみると、ぼくが浮き上がってきたのだという。
どうやら知らぬ間に、水中で右手を高く上へ突き上げていたらしい。
遠くから見ていた母は、ぼくが水に沈んで右手だけを出しているのを見て、ああ、もう死んだな、と思ったそうである(?!)
いったい、あの澄み切った真っ青な世界は何だったのだろうか。
どうやって、水面に浮きあがってプールサイドに立ったのだろうか。けっこう重いであろうに。
後年、同じように、同じ場所に潜ってみたが、もう二度とあの真っ青な世界へは行けなかった。