不思議体験 人形の怪

ぼくの姉は幼いころから、ある人形をかわいがっていた。
名前を付けて服を着せかえたり、いっしょに夜は寝ていた。
いつごろからかわいがっていたのか、どういうわけで手に入れたのかは知らない。たぶん、父に買ってもらったのだろう。

そうして何年もたったある日、ぼくはもう高校ぐらいにはなっていたと思う頃である。

突然、姉が騒いでいるので、何かと思っていると、部屋の戸をあけて、血相を変えている。
手にはあの人形(25センチぐらい。金髪の巻き毛で、2歳ぐらいのまるまるとした女の子の感じ)を持っている。
しかも、何か今までと違って、腕を伸ばして、その人形を目いっぱい、自分から離して持っていた。

そして、その人形をどこかにやってくれ、と言うのだった。

ひどくおびえている。

ぼくは面白がって、

「なんや、この人形が動いたんか?」
「なんでもエエし、もうこの人形いらんし、どっかやって、すぐ!」
「どうしたんや、人形がしゃべったんか?」
「何も言わんといて! どうでもええし、はよ、処分して」

と、ぼくに、その長年かわいがっていた人形を渡して、逃げるように目をそむけて戸を閉めようとするので、ちょっとおそろしくなったぼくは、しつこく尋ねたが、絶対に何も言わないのだった。

ぼくはその人形をしばらく持っていて、何か変化がないかようすを見ていたが、なんともない。
そして、しまいにはゴミに出して処分した。

それきり、姉は何も言わなかったし、言えば怒りだしそうなので聞けなくなってしまった。
姉はもう亡くなってしまったので、もはや永遠の謎である。

しかし、あのようすからして、おそらく、あの人形は言葉をしゃべったのだと思う。
動いたぐらいなら、あんなにおびえないだろうし、目の錯覚かと思うぐらいだろう。

実を言うと、あれ以来、ぼくは人型人形がこわい。

想像だが、かわいがってもらいたい霊魂のようなものが、人形に入り込み、動いたり、しゃべったりすることがあるのかもしれない。

そういったたぐいの怪談をその後、知るようになったからだ。