冥界とは何か
辞書で「冥界」を引くと、「死後の世界。冥土」と出る。
で、和英辞典では、「hades (ヘイディーズ)」つまり、ハデス、と。ギリシャ神話の冥府の王。また、冥府そのものを指す、と。
つまりは、死者の国のことである。ちょっとニュアンスは違うかもしれないが、幽界ともいう。
では、その逆の生きている人間の世界はというと、「顕界(げんかい)」という。この世のこと。
イザナミノミコトがイザナミノミコトを探しに行った世界が、冥界ということで間違いないと思う。つまり、日本ではハデスじゃなくて、イザナミノミコトが黄泉(ヨミ)の国の王、ということになる。
現代日本では、単に、霊界といったほうがしっくりとくるだろう。
それでは、霊界はあるのかないのか。
たとえ、幽霊を見た人がいるとしても、その幽霊はこの世にいたわけで、幽霊を見て、幽霊の存在を認めたとしても、その幽霊が行く別の世界、つまり冥界がある、ということにはならない。その幽霊はしばらくしたら消滅するかもしれないわけで、その人が霊界を認めなければならないことにはならない。
あの世を信じていない人は多い。若い人よりも、むしろ高齢の人に多い。
実際、ぼくはある場所でお年寄りの女性二人が話しているのを聞いていたのだが、その一人がもう一人にこう言っていた。
「あんた、若いなあ」
と。
その当時のぼくには、どちらもかなりの高齢に見えたので、ちょっとばかり面食らったのだが、もう一人のほうは、まんざらでもなかったようで、若いと言われて喜んでいた。
どうみても、どちらも同年代の年寄りなのだ。
あとで知ったのだが、ひとりは70歳くらいで、もうひとりは90歳近かったようだ。なるほど、いまのぼくなら納得できる話である。
そのうち、そのふたりの話は切実な「自分が死ぬ」話題になったのだが、90歳ぐらいのほうが、こう言っていた。
「あんた、なにゆうてんの。死んだらしまいや。なーんにもあらへん。極楽も地獄もあるかいな。まっくらや」
と。
そう言って、笑っていた。
数年後、その高齢のほうの女性は体調を崩して亡くなったのだが、ぼくは葬式の席で、彼女の言葉を思い出して、今頃どうしているのかなあ、と考えさせられた。ぼくはあの世があることを確信をもって信じているので。
そして、あの世で迷子になっているんじゃないかと心配になってしまった。なぜなら、とてもいい人だったから。
亡くなる前に、病院へ花びんと花を持って、お見舞いに行ったことがある。
そこで、「ちょっと、悪いけど、向こうの冷蔵庫のところへ行って、わたしの名前が書いてある袋を持ってきてくれるか」と頼まれた。
その病院では、患者の食べ物など、ひとつの冷蔵庫に入れていたので、名前の書いたビニール袋に個別に分けて入れさせていたのだ。
言われたとおりにビニール袋を冷蔵庫から持ってくると、「中にゼリーが入ってるから出してくれるか」という。
そこで、冷えた果物入りのゼリーを取り出して、表面をめくって渡すと、スプーンをつけて、ぼくに手渡して、
「あんた、食べ」
と言って、ぼくに食べさせた。
そんな人だった。
もし、彼女が少しでも霊界について知っていたのなら、迷子になったりしないのだろうな、と思ったものだ。
霊界はどんなところかというと、諸説あってバラバラであるのが実情だと思う。
・極楽(天国)と地獄があって、善い行いをした人は極楽へ。悪い行いをした人は地獄へ行く。
・あの世はこの世と同じように、人々が町を形成していて、同じように暮らしている。天国も地獄もない。
単純に考えて、このどちらかに集約されると思う。
さらに、輪廻転生の問題がある。死んだ人がこの世に再び生まれ変わってくるのかどうか。すると、さらに2つに分類されるから4つの場合が想定される。
・天国と地獄があって、永遠にその世界で生き続ける。
・天国と地獄があって、長期間滞在したのちに、生まれ変わってくる。
・天国も地獄もなくて、この世と同じように、先祖たちと永遠に生活する。
・天国も地獄もなくて、一定期間滞在したのち、生まれ変わってくる。
もうひとつ、初期仏教で説かれていた考えがあって、
・あの世とこの世があって、生まれ変わりがあるが、悟りを開いた人は、もはや生まれ変わらずに、ふつうには知られていないすばらしい世界に行く。
というもの。
宗教で説かれている説はあくまでも参考にさせていただいて、このサイトでは、臨死体験した人や、幽体離脱をした人の言説をもとにして、考察していきたいと思う。